小浜逸郎ライブラリ 小浜逸郎の過去の評論を掲載


掲載紙:朝日新聞
(1998年2月15日付)

「『家をつくる』ということ」
藤原智美 著
プレジデント社
1800円

書評「『家をつくる』ということ」藤原智美 著

 「家」という言葉は、建物の意味から伝統を維持する家系の観念の意味に至るまで幅広く使われる。だから建物としての「家」がどんな構えや造りをもつかは、どこで営まれる生活様式を規定するし、またそれらの直接的な表現ともなる。

 この本の着眼点もそこにある。といっても古来の家造りを探索して日本人の生活感覚を浮かび上がらせるたぐいではない。あくまでも世の人々がいま「住まいづくり」に何を求めているか、そこからどんな問題点が出てくるかを通して、現在の家族の状況を探り出そうとした本である。

 方法が一風変わっている。グッドデザイン賞を受賞したあるプレハブ住宅の設計思想を丹念にリサーチし、そこからわく疑問に対して「友人の精神科医」なる人物とのやり取りを通して自答してゆく。実録、小説、随筆、評論などの要素を含みながら、そのいずれでもないところが面白い。

 プレハブ会社の社長の「人は子育てのために家を建てる」という端的な回答を得て安心するものの、人物像のない楽器だけが写っている同じ会社のカタログ写真に、現代家族の不安を感じ取る。また個室の目的を深く考えずに子どもに閉鎖空間を提供してきた戦後日本の居住思想が情報時代に直面して困惑している状況も指摘される。結局、いまの日本の家族が、その内部や外部にどういう「関係」を作っていくかについて明確な像を持たない事態への危惧(きぐ)を提示するのが著者の眼目であろう。

 よい家族を営むために家がある、だからこそこれからはどういう空間を構想するかが大切だという思想には共感できる。ただしすらりと読めてかえって歯ごたえがいまいち。作中の「精神科医」に欧米型近代個人主義の美点ばかりを強調する役割がふられて「わたし」が何となくそれに説得されてしまうというしかけ自体に、よくある日本批判パターンの軽薄さが感じられるせいだろう。語り口は新鮮だが中身をもう少し掘り下げて欲しい。


(原文で傍点が付されている部分を、当ページでは強調文字で表した)