俵万智の「チョコレート革命」が評判である。マンガかテレビCMのような装丁を見て一瞬買うのをためらったが、やはり買ってよかった。中身はなかなかのものだ。内容は大きく男女関係(主として不倫)を歌ったものとそうでないものとに分かれる。後者はちっとも面白くないが前者はどれも圧倒的に面白い。その極端な落差がまた面白かった。俵万智という人はきっと芯(しん)まで「恋愛歌人」なのだ。ほかのことは歌わないほうがいい。
☆知られてはならぬ恋愛なれどまた少し知られてみたい恋愛
☆「二人とも愛しているんだ」腕ずもうのように勝負がつけばいいのに
☆家族にはアルバムがあるということのだからなんなのと言えない重み
☆ひきとめていたる暁「試すのか?」と言われてしまえばそうかもしれず
妻子ある人との恋が生み出さずにはおかない一瞬の心のよどみのようなものへの鮮やかなフォーカス。ひねりのないストレートな作歌姿勢のために、かえってひねられた現実をことばで切り取ることに成功している。筆者は、短歌の伝統や歴史的変遷のことはよくわからないが、短歌とは、個人の叙情表現として確立してからは要するにずっとこういうものだったのではないか。
「あかねさす紫野行き標野(しめの)行き野守は見ずや君が袖(そで)振る」
「しのぶれど色に出にけり我が恋は物や思ふと人の問ふまで」
古代から秀歌としていまでも人の口の端にのぼるものと、現代恋愛歌人の歌い口とは、ことばのツールこそ違え、一脈も二脈も通ずるものがある。