小浜逸郎ライブラリ 小浜逸郎の過去の評論を掲載


掲載紙:朝日新聞
(1997年3月9日付)

「不機嫌な時代」
ピーター・タスカ 著
講談社 刊
1648円

書評「不機嫌な時代」ピーター・タスカ 著

  日本はどうなるのかという客観的不安と私はどうなるのかという主観的不安は、直接には重ならないはずだ。だが経済の低迷ぶりや政治の空白や文化風俗の無秩序、技術革新の強迫的な波、国際関係の変化など、はじめの不安を呼び起こすようなシグナルがあまりに多いと、それがあとの不安の切実さと神経症的に結びつく。今の日本人の多くが陥っている状態がこれだ。

  一方私たちは、それなりにやることをやって到達目標を喪失してしまった現在、「どうせ専門家だってわからないのだからなるようにしかならない」というおなじみの捨て鉢感覚も抱いている。まさに行動選択に先立つ日本人の心理そのものが「不機嫌」なのだ。

  著者は、なんでもかんでも不信感をもつ結果ついには自己不信にまで陥り、せっかくの可能性をもつぶしかねないのが「不機嫌な時代」の本質であるという。ではどうすればこの不機嫌を乗り越えられるのか。もちろん安直な解答はない。

  この本のざん新さは、たてまえだけの明快な経済分析がウリの「未来予測」本や、カラ元気をあおる「精神」本のたぐいの無力さを思い知らされている私たちの気分に、どこまでも忠実に寄り添おうとするその問題提出の方法にある。今の日本の内外の情勢はこうなっているということを、政治、経済、文化の各側面からできるだけニュートラルに押さえた上で、2020年における日本のあり得べき3つのシナリオ(要約的に言えば「衰亡」と「発展」と「沈静」)を示し、さあ、あとは各自勝手にやってごらんなさいと投げ出す格好になっている。

  一見不親切なようで、こういう方法のほうが結局は本当の「元気づけ」につながることは確実だ。シナリオでは、マクロの情勢と個人の生活スタイルとが対応させられているが、このアイデアもなかなかうならせる。私見を言えば、最後が一番ありそうで、あとの二つの中間あたりが「目指すべき道」ということになるだろうか。