小浜逸郎ライブラリ 小浜逸郎の過去の評論を掲載


掲載紙:朝日新聞
(1996年4月21日付)

「トンデモ本の逆襲」
と学会 編
洋泉社 刊
1400円

書評 「トンデモ本の逆襲」と学会 編

  1999年に世界は滅ぶとか、太陽は本当は低温なのだとか、日本はかつて世界を支配していたとか、世界はユダヤ人の陰謀に支配されているといった頑固な<思想>に接したとき、私たちはどうするだろうか。世の中には変わった人がいるなとなるべく近寄らないようにするか、こうした非科学的、非実証的な<思想>がはらむカルト的惑わしや排外的なナショナリズムの危険性を深刻に問題視してまじめに論ずるか。

  しかし、ことにオウムのような事件があったあとでは、これらの<思想>に知らぬふりを決めこんでいていいのかという気もするし、かといって、まじめな突っ込みが有効であるとも思えない。その点、「と学会」の、からめ手から思いきり笑い飛ばしてしまおうという戦略は、まことに新鮮であり、私たちの当惑に対する救いの神であったといっても過言ではない。

  ただし、こういうことが本当にうまくできるためには厳しい条件が要求される。これらオカルト系文化の薫り(?)に存分に浴していなくてはならないし、しかもそれを凌駕(りょうが)するにたる自然科学や歴史の確固たる知識が必要である。何よりも、これでもかこれでもかと輩出してくる「トンデモ本」にへきえきせずに楽しみながらつき合う根気を維持するのが大変であろう。すでにシリーズ二弾目だが、これらの条件をすべて軽々と越えているのが、この本の魅力である。

  かれらは、平均年齢三十五歳前後というところか。幼い頃(ころ)からオカルト系文化に無防備でさらされてきた、そういうかれらにしてはじめて可能な試みだったといえよう。つまりは、オカルト世代、おたく世代が自ら合理性へバランス回復する治癒過程を証(あか)す本である。また、無視か排撃かの硬直した対応に陥らずに、あくまでも「言論の自由」を踏まえた土俵で闘う姿勢に、「民主主義」感覚についてのよいヒントをもらったようにも思った。