講義
「ことば」とは何か
(第4期講座)
受講生から寄せられた感想です
言葉によって世界が立ち上がるというお話を聞いて/知的障害者施設で係長をしています。毎日職員による申し送りの場面に立ち会っているのですが、これも言ってみれば、職員の語りによってある種の世界が立ち上げられているのか、と思いました。そこでの言い方や語られ方にもう少し注意しなければいけないのかとも。にしても、施設職員の世界では断片的な言葉によってけっこう曖昧なイメージが共有かされている気がして、ちょっと問題かな?と思いました。
[村松亘さんの感想]
3回目の講義は、ほんとうは旅行中で欠席の予定だったのだが、旅行予定を短縮して受講した。というと随分熱心なようだが、実をいえば、恥ずかしいことに、受講前浜田氏の名前を知らなかった。乱暴な話で、年間一括受講方式の、とりあえず何にでも食らいつくピラニア精神、上品な言い方をすれば知の冒険精神で、興味のあるなし関係なく受講する方針だったのだが、それが幸いした。
――と、ここまで書いて気づいたのであるが、今、私は氏の言うところの『逆行的構成』を実行しているのではないだろうか? 体験時の視点と、それを想起して語るときの視点が、こういう場合しばしば混交する、とレジュメに書かれているとおり、いま私は、実際には浜田氏の名前も知らないで教室に入ったくせに、さあこれから浜田先生の熱のこもった話を聴きにいくぞ、と教室に入っていく初日の自分を想定したりしているのだから。
話すということは相手に聞かせること、声を届かせようとすることであり、聞くとは相手の立場に立つことである、と氏は言われる。自分の身体と、相手の身体を互いにさらしあうことで共同性が生まれ、おなじひとつのものを同時に見ることにより、どこにも焦点のなかった〈地〉が、あるひとつの焦点をむすび、〈図〉か浮かびあがり、その〈図〉を双方で共有し、やりとりするなかで言葉が生まれ、ひとは世界でのふるまい方を学んでいくのだ、と。
言葉を習得する幼児の場合、そういうことになるらしいが、私は勝手に拡大解釈して、自分にもおなじようなことが、講義によって起こった、それは氏との、以上のようなやりとりのせいだと思っている。つまり、おなじひとつの教室の中で、講師と受講生が身体をさらしあい、おなじひとつのものを同時に考えたり想像したりしたせいだと。
こういうことが起こるのに、不可欠なものは、講師への信頼だと思う。
氏の話し方、風貌は、受講生から信頼を引き出すのに有効かつ有利に働いている、と私には感じられた。
氏の話し方は、1回目講師の中島義道氏のそれとどこか似ているような気がした。明晰さ、隙のなさ、テンポの迅速さ、論理展開の明快さ、独特のユーモア…そして風貌は、以前よく安部公房氏に似ている、と言われたのではないかと、出店で購入した『「私」とは何か ことばと身体の出会い』の裏表紙の顔写真を拝見し、憶測した。
この話し方、この風貌だから、このひとの言うことは信頼できるという気にならされるのだ、氏の著書を読むだけではこういう気には恐らくならない、と思った。
話は換わるが、私の記憶では2回目と3回目の講義の最初に、氏は、「まだ考えている最中なので旨く話せないかもしれませんが」と断られ、慎重に言葉を選びながら、ゆっくりと甲山事件のこと、佐世保事件のことを話しだされた。近い将来、なんらかの形で日の目をみることになる論文か何かの構想を、受講生相手に話しながら練っておられるのだろうか? と私は勘ぐったものだ。もしそうだとすれば、氏は、そこにたどり着くまでの〈裏舞台〉を公開しておられることになる。そして私たちは、氏の中でことばが生成し、成長し、概念が形成されていくその現場に立ち会っていることになる。
甲山事件、佐世保事件の両事件を通じて貫かれている氏の視点は、生きた時間の流れの中で人がどう感じたり考えたりするか、ということだったように思う。今、ここ、という視点の大事さを言われているのだと思った。今、ここに、身体を内側から生きている自分がいる、と感じることの困難と必要を強く感じさせられた。
講義の端々で、ふと洩れる独白のような氏の言葉も、印象深かった。たとえば9.11のことで、WTCビルに激突した旅客機の操縦者について、こう言われた。
「すごいですよね、最後の瞬間まで操縦桿を離さないで握ってるんですからね、死ぬまで生きているんですからね…」
むろんのことテロリストの行為としてでなく、ひとりの人間の行為として、純粋に身体性の観点から話されたのである。
最後に、芥川龍之介の『藪の中』について、現実には一つの物語を、当事者がそれぞれ三者三様に語ったものというように言うことはできない、と論じられたが、講義終了後、私は急いで同小説を読み直した。氏が言わんとしていることと、『藪の中』の作者が言わんとしていることを、目下、比較検討中である。
[K.H さんの感想]